「詩はこころのおやつ」海乃もくずの詩のブログ

文を書いています。活字中毒者です。このブログでは詩 poetry lyricsをつづっていきます

街~sinzyuku~

久しぶりに行ったんだ

ちょっと前までは

あんなにいつも通ってたのに

今じゃ河岸を変えちまって

すっかりご無沙汰だった

 

そしたらなんだか

様子が変わった気がしたんだ

 

そうあの頃は

行くたびに喜んで迎えてくれた

「やあよく来たね

いいものが入ったんだ

新しい店ができた

ま、ゆっくりしていきなよ」

そんな語りかけが

あちこちから聞こえてきた

 

すっかりここの馴染みになった気分さ

全く得意げに歩いたものだ

 

けれど今日は

ちょっと知らない

ちょっとこちらを拒否してる

まるで可愛い子がすねてるようだ

 

「あれ何か用

よく覚えていたね

もうここのことなんか

すっかり忘れちまったんだろう

最後にここへきたの

いったいいつだっけ」

 

思いもよらない

素っ気なさに

慌てて辺りを見回して

いつもと違う空気を感じる

 

「どう、驚いた

ここはね、いつだって

変わり続ける

だから離れてしまうと

こんなに遠く感じるんだ

君が悪いんだよ

ここのこと忘れて

ずっとこなかったからさ

もう知らない場所になった気分だろ」

 

やっと自分が

どんなにこの場所の居心地を

愛していたか

気がついたなんて遅すぎる

 

毎日の記憶の中に

刻み込まれた真実

 

あああの場所のたたずまいを

空気を雑踏を騒音さえも

すべてひっくるめて

自分の生活のなかの

かけがえのないもののひとつに

当たり前に

数えていたことが

 

帰り際

風が背にささやく

「さあまた来なよ

また次は違った顔を見せるって

知っているだろう

それに魅せられていつも通い続けていた

君だもの」

 

そのとおりだ

旧い友人に

素っ気なくされるくらい

胸に染みる

苦笑い、また来るよ

心の中で誓う

 

このまちは

ほんとうにこのまちは

 

ときどき、胸を締め付けるほど

切ない気分にさせる

 

思い出でいっぱいなんだ

 

910824